慢性的なストレス
現代人が抱えやすいストレスは、セロトニンの問題を引き起こす最も大きな原因の一つといえます。
人はストレスを感じると、コルチゾールというストレスホルモンが分泌されます。
このコルチゾールは、セロトニン神経を抑制してしまいます。
そのため、脳内のセロトニン分泌が落ち、セロトニン欠乏脳になってしまうのです。
タンパク質やアミノ酸の摂り過ぎ
安定したセロトニン量を維持するには、食生活にも気をつけなくてはいけません。
セロトニンの産生には、トリプトファンというアミノ酸が必要です。
トリプトファンはタンパク質の部品であるアミノ酸の一種です。また人間の体内では合成できず、食物などから外部摂取しなければいけない必須アミノ酸でもあります。
アミノ酸はタンパク質の部品ですので、肉類や魚介類などから摂取することができます。また、近年ではスポーツドリンクやサプリメントなどでアミノ酸を補えるようにもなっています。
しかし、ここであまりに高アミノ酸・高タンパクな食事やサプリメントなどを摂りすぎると、かえって脳内への吸収が遮断されてしまうことがあります。
その理由は、血液脳関門にあります。
血液脳関門とは、私たちにとって最も重要な器官である脳に余計な物質が入り込まないように、血流で運ばれる物質の脳内への通過を制限する機構のことです。
通常、トリプトファンは血液脳関門を通過することができますが、血中のアミノ酸が大量に血液脳関門に押し寄せるとアミノ酸どうしが拮抗してしまい、結果的にわずかな量のトリプトファンしか通過できなくなります。
そのため、セロトニン産生に必要なアミノ酸やタンパク質にもかかわらず、過剰摂取するとかえって脳内のセロトニン量が低下してしまうのです。
夜型の生活環境
セロトニンの機構は日光を浴びることで、体内で活性化されます。
一方で夜間には、セロトニンはメラトニンに変化し、睡眠を誘導します。
よって、太陽が沈んだ頃に活動を始める夜型の生活をしている人は、セロトニン不足に陥りやすいと言われています。
毎年秋から冬の初めにうつ状態となり、春には回復する冬季うつ病の症状を訴える人がいますが、この原因は日照時間や緯度の変化にあるという説があります。
例えば、アメリカでの冬季うつ病の症状を訴える人の数は、カナダ国境に近い高緯度の州では多くなり、フロリダ州のような低緯度の州で少なくなると言われています。
また、大学の研究機関などでは、かつて深夜や明け方まで研究室に残って実験をする学生が多くいました。
しかし、夜型の研究生活をしている学生や研究生は精神的に落ち込みやすい傾向があるという見解から、近年では学生に対して日中に活動するように推奨している大学もあります。
このように、夜型の生活をしている人には、セロトニン不足による問題が懸念されます。
ホルモンバランスの影響 (特に女性)
人間のホルモンバランスもセロトニン分泌には重要です。
特に女性は生理によって女性ホルモンのバランスが変化しやすいと言われています。
女性は月経前になると、情緒や食欲が変化したり、吐き気やめまい、頭痛といった身体の不調を訴える月経前症候群 (PMS) の症状が出ることがあります。
これは、月経前には女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが減少するためと言われていますが、同時にセロトニン分泌が減少することも原因であるとされています。
遺伝的要因
それぞれの人間が持っている遺伝子のタイプは少しずつ異なり、それは性格や体質、病気などにも大きく関連しています。
セロトニン不足の問題も、遺伝的な要因が関わっている場合があります。
セロトニン不足に重要であると注目されているものに、セロトニン・トランスポーターという遺伝子があります。
セロトニン・トランスポーターはセロトニンの量を調節する機能をもち、人によってSS型、SL型、LL型というタイプがありますが、Sの遺伝子のタイプが多いほど、セロトニン不足を招きやすいと言われています。
世界的にみて、日本人はSS型のタイプが多いとされており、このことから日本人はセロトニン不足になりやすい民族であると言えます。
セロトニン不足によって起こる疾患や症状とは?
では、セロトニンが不足すると具体的にどのような疾患や症状を招くのでしょうか。
やる気や集中力が失せ、うつ病などの精神疾患の原因にも
セロトニン不足が引き起こす非常に深刻な症状の一つは、やる気や集中力が低下したり、気分が沈んでしまったりすることです。
このような症状が続いたり、ひどくなってしまうと、うつ病・統合失調症・パニック障害・強迫性障害などの精神疾患になってしまうこともあります。
適切な睡眠が取れなくなり、不眠症などの睡眠障害を引き起こす
セロトニンが不足すると、メラトニンの働きも悪くなってしまい、互いの分泌のバランスも取りにくくなってしまいます。
それによって、夜に眠れなくなったり、日中眠気が取れなくなったりします。
このような症状が慢性化し、不眠症などの睡眠障害と診断されてしまう人も多いです。
衝動や情緒をコントロールできなくなる
セロトニンはドーパミンやノルアドレナリンの働きを調節する役割もありますので、セロトニンが不足するとそれらのホルモンが暴走してしまうこともあります。
ドーパミンが暴走すると、目先の快楽や快感に対する衝動が抑えられなくなる傾向が強くなり、買い物やギャンブル、アルコール、ゲームなどの依存症を訴える人も多くいます。
また、ノルアドレナリンが暴走すると、攻撃性が増す傾向が強くなり、すぐにイライラしたりキレやすくなったりします。
セロトニン不足によるドーパミンやノルアドレナリンの過剰分泌が続くと、今度はこれらのホルモンが枯渇し、ストレスに対抗できなくなります。
セロトニンに加えてドーパミンも不足すると、物事への意欲・関心が失せ、無気力で「やる気が出ない」状態となります。
また、セロトニンとノルアドレナリン両方が不足すると、パニックや恐怖、強迫観念、抑うつなどの症状が起こりやすくなります。
疲労や免疫低下などの身体の不調を引き起こす
睡眠時には成長ホルモンが分泌されることで新陳代謝や免疫力が上がり、身体の状態を健全に維持しています。
しかし、セロトニンが不足して睡眠に問題が出ると、成長ホルモンの分泌が乱れてしまい、免疫力の低下や疲れが取れない、シミやシワの増加、肥満になりやすいといった身体の問題を引き起こす場合があります。
また、セロトニンは痛みを抑制する効果もありますので、セロトニン不足によって片頭痛や線維筋痛症が引き起こされる場合もあります。
さらに、セロトニンは腸の蠕動運動も亢進していますので、セロトニンが不足すると便秘の原因にもなります。
自律神経失調症や生活習慣病の原因にも
セロトニンは交感神経・副交感神経からなる自律神経の働きを調節しています。
そのため、セロトニン不足は自律神経失調症の原因にもなります。
また、先ほど紹介したノルアドレナリンは、交感神経で働く物質です。
セロトニン不足によってノルアドレナリンが過剰に働くことが慢性化すると、交感神経も過剰に刺激され続け、高血圧症や心筋梗塞・脳梗塞など、さまざまな生活習慣病の発症リスクを高めてしまいます。
関連文献