CBDやCBDオイルとは?
CBD(カンナビジオール)は、カンナビス ・サティバ ・エル(産業用大麻)やカンナビス ・インディカ(マリファナ)などの植物から抽出されるカンナビノイドと呼ばれる成分です。大麻は向精神作用や陶酔作用などの精神活性作用があることが知られていますが、それはCBDではなくTHC(テトラヒドロカンナビノール)と呼ばれる別のカンナビノイドによって引き起こされる作用です。
CBDとTHCは全く別の作用があるため、CBDだけを摂取することによって精神が「ハイ」になることは一切ありません。むしろCBDは安全性が高く心身に様々なメリットを与える成分として注目されています。
また、近年ではCBDやCBDオイルによる難病治療の研究も進められています。
アメリカでは2018年より、小児の難治性てんかん発作であるドラベ症候群とレノックス・ガストー症候群の2症例でCBDを主成分とする薬が正式な処方薬として使用されています。
CBDは原料となる大麻などの植物から粉末状に抽出された後に様々な製品に加工されます。CBD原料とオリーブオイルやココナッツオイルなどのキャリアオイルを混合した製品はCBDオイルと呼ばれます。
CBDオイルはCBDを舌下摂取(舌下粘膜から血管内に吸収)させることで肝臓での代謝・排泄の作用を受けないため、体内へのCBDの吸収量が高く、効果が速く現れます。
また、舌下摂取では効果持続時間も4〜8時間と長いこともあり、現段階で最も普及しているCBDの摂取方法です。
カンナビノイド受容体であるCB1とCB2の役割とは?作用機序についても解説!
CBDやTHCなどのカンナビノイドの体内での作用をより理解するために、エンド・カンナビノイド・システム(ECS)の構造を見てみましょう。
ECSとは?
CBDやTHCなどのカンナビノイド類は、私たちの身体に存在するECSという「身体の恒常性を一定に保つ」仕組みに働きかけます。
ECSが機能することによって疼痛や炎症の緩和、ストレスや不安の軽減、食欲、吐き気、睡眠など改善の作用があると言われています。
私たちの体内では元々、内因性カンナビノイドであるアナンダミド(AEA)や2-AGなどが分泌されており、全身に発現するカンナビノイド受容体であるCB1やCB2などに作用することで上記のような作用をもたらします。
CB1は主に中枢神経系(脳・脊髄)に発現し、CB2は末梢神経や皮膚、免疫細胞などに見られます。
また、心臓や筋骨格、消化器系、生殖器系、泌尿器系、眼球、ましてや私たちの身体を作るミトコンドリア細胞一つひとつにもCB1やCB2の発現が確認されています。
CB1やCB2は「Gタンパク質共役受容体(GPCR:G protein-coupled receptor)」と呼ばれる受容体の一種です。
GPCRが機能する仕組みは、まず神経伝達物質が受容体を活性化させ、メッセンジャーである「Gタンパク質」と呼ばれる物質に神経伝達物質が持つ情報が伝わります。
そして、Gタンパク質が最終的に細胞や組織に神経伝達物質から受け取った情報を伝えます。
ここでは、免疫細胞の例を見てみましょう。
身体の炎症を引き起こす免疫細胞にはCB2(受容体)が発現しますが、2-AG(神経伝達物質)がCB2を活性化すると、Gタンパク質は「免疫細胞の活性を調節するように」という情報を受け取って免疫細胞に伝えます。
また、AEA(神経伝達物質)がCB2に作用するとGタンパク質は「活性を抑制するように」という情報を受け取ってそれを免疫細胞に伝えます。
内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体は鍵と鍵穴のような関係であり、正しい鍵とそれに合う鍵穴がなければ開錠できないようにAEAや2-AGの分泌がなければCB1やCB2が活性化せずECSは機能しません。
この鍵となるAEAや2-AGなどの内因性カンナビノイドは、身体的・精神的ストレスや加齢、様々な疾患などが原因で減少し、それによってECSの機能が低下して心身に様々な不調が現れるとされています。
また、先天的にECSに異常がある場合もあります。
自閉症スペクトラム症候群(ASD)のマウスはCB1やAEAなどに機能異常が見られており、ASD発症の原因として「内因性カンナビノイド仮説」が挙げられています。
このように、ECSの働きが低下してしまうと身体の様々な機能が正常ではなくなってしまいます。それでは、CBDは体内でどのようにECSの働きを助けるのかを見ていきましょう。
CBDとECSの関係は?
CBDが直接CB1やCB2と結合して受容体を活性化する「アゴニスト(作動薬)」としてAEAや2-AGの代わりに作用する訳ではありません。アゴニストとは上で説明した「鍵」の役割をする物質です。
CB1やCB2を活性化するメインのアゴニストはあくまでAEAや2-AGですが、CBDはAEAや2-AGAを破壊する酵素であるFAAHやMAGLを阻害することで、体内での分泌量を増加させる作用があります。
一方で、CBDはCB1やCB2に対して「アンタゴニスト(遮断薬)」もしくは「インバース・アゴニスト(受容体逆作動薬)」としての働きがあることが示唆されています。
インバース・アゴニストはアンタゴニストの一種とされることもありますが、その作用は似ているようで微妙に違う物質です。
アンタゴニストとは受容体をブロックすることで「アゴニストの受容体への結合を阻害する」物質です。アンタゴニストが受容体に結合することによって受容体に何かしらの作用がもたらされることはありません。
例えば、THCは中枢神経系のCB1を活性化する作用がありますが、多量のTHCが一度にCB1に結合すると神経の興奮などの副作用が生じます。
しかし、THCとCBDを同時に摂取することでCBDが部分的にCB1をブロックするため、一部のTHCはCB1に結合できません。
その結果、THCによる疼痛緩和や食欲増進などの作用を維持しながらも、副作用である精神活性作用を抑えることができます。さらには使われなかったTHCが血中に長く滞在するため、THCの効果持続時間も長くなります。
このようなアンタゴニストに対して、インバース・アゴニストは受容体と結合すると、アゴニストによって引き起こされる作用とは「真逆の」作用を引き起こす物質のことです。
つまり受容体を「不活化」するだけでなくアゴニストによって引き起こされる作用を「弱化」する働きがあるのではないかと考えられています。
このインバース・アゴニストとしての作用はさらに研究が必要な段階ではありますが、ある研究ではCBDはCB2に対してインバース・アゴニストとしての役割があるのではないかと報告されています。
ECSは90年代に発見され、まだ解明されていないことが数多くあります。これから新たなカンナビノイド受容体や内因性カンナビノイドが発見されたり、現段階で信じられている作用が違っていることがあるかもしれません。
今後もECSの研究に注目していきましょう。
CBDやCBDオイルはカンナビノイド受容体の他にどのような受容体に作用する?
体内には様々な神経伝達物質受容体がありますが、現段階でCBDが何らかの形で作用することがわかっているものはどのようなものがあるのでしょうか。
セロトニン受容体の5-HT1A
セロトニンは体内で様々な役割を担っています。セロトニン受容体の種類は体内に複数ありますが、CBDが作用することがわかっている5-HT1Aは、睡眠や食事、不安、体温の調節などに関わる受容体です。
また、セロトニンは様々な神経伝達物質のバランスを調節する役割を担っています。
興奮したり恐怖を感じたりすると分泌されるドーパミンやノルアドレナリンなどを、セロトニンの分泌量を増加させることによって抑制させます。
したがって、セロトニン不足になると不安が強い状態が持続し、うつ病やパニック障害、睡眠障害などが引き起こされます。
過去に行われた複数の研究より、CBDやCBDオイルは不安を軽減したり睡眠障害を改善することができる可能性が高いとされており、副作用の強い抗不安薬や抗うつ薬、睡眠薬などの代わりになることが期待されています。
バニロイド受容体のTRPV1
TRPV1はカプサイシンなどによる痛み刺激をコントロールする受容体です。
CBDやCBDオイルは疼痛を緩和させる作用があることが知られているのは、TRPV1がCBDの疼痛緩和に関わる重要な受容体として働いているためだと考えられています。
ラットを用いた研究により、CBDがTRPV1を活性化することで、通常では痛みとして感じないような些細な刺激を痛みとして感じる「アロディニア」を緩和したことが報告されています。
アロディニアは帯状疱疹後神経痛でも頻繁に見られる症状です。
CBDやCBDオイルは、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの鎮痛薬が効きにくかったり、長期間服用することで副作用の心配があったりする疼痛に使用されることが期待されています。
CBDは神経因性疼痛に効果がある?カンナビノイド系の疼痛治療剤とは?
GABAA受容体
GABAは心身にリラックスをもたらす抑制性の神経伝達物質であり、ストレスや不安、睡眠などに関わっています。
GABAA受容体に作用する一般の処方薬ではデパス(エチゾラム)が広く知られています。
デパスは睡眠薬や抗不安薬として多くの診療科で処方され、正しく服用すれば効果の高い薬ではありますが、乱用や強い副作用、激しい離脱症状など様々な問題を抱えている薬です。
CBDやCBDオイルはこのデパスの代わりとして睡眠障害や不安などの症状を改善できるのではないかと考えられています。
CBDやCBDオイルはデパス(エチゾラム)の代わりになりうるか?
アデノシンA2A受容体
アデノシンは体内でエネルギー(アデノシン三リン酸)が分解された後にできる物質で通称「エネルギーの燃えかす」です。
エネルギーを使うことで脳内に蓄積されるアデノシンは、アデノシンA2A受容体と結合すると睡眠中枢に働きかけて深い眠りをもたらしします。
アデノシンの役割は睡眠改善だけでなく、抗炎症作用や血管拡張作用、細胞や組織を傷害から保護する作用などもあります。また、脳梗塞や脳挫傷(脳の打撲)などの脳の障害において脳を保護する重要な役割もあります。
前述したECSはアデノシンの分泌にも関わっています。
内因性カンナビノイドであるAEAは、アデノシンの分泌量を増加させることがわかっていますが、その正確なメカニズムの全貌はまだ解明されていません。
現段階では、脳の前脳基底部にあるCB1を活性化するとアデノシンの分泌量を増加させることが報告されています。
しかし、アデノシンはすぐに代謝される特性があり、アデノシンが多く分泌されて濃度が高くなるだけでは短時間でその効果は消失します。
CBDは、アデノシンA2A受容体を活性化することでアデノシンの受容体への作用を促進すると同時に、細胞に取り込まれて一気に代謝されてしまうことを阻害する作用があります。
AEAやCBDのこれらの作用により、長時間アデノシンを効率良く脳内で利用することができると考えられています。
CB1やCB2以外のGPCR
上の項目でも解説したGPCRは、CB1やCB2以外にも数多くの種類が体内に存在し、それらにもCBDが作用する可能性が高いとされています。
GPCRはまだ多くの研究を必要とする分野ではありますが、その中でGPR55はすでに第3のカンナビノイド受容体とも言われています。GPRとは上で解説したGタンパク質を意味します。
GPR55にはTHCはアゴニストとして、CBDはインバース・アゴニストもしくはアゴニストとして作用することがわかっています。
GPR55が関わる疾患の中で、特に関心が高いのはがんの治療でしょうか。がん細胞にGPR55が多く発現するとがん細胞の増殖に繋がるとされており、GPR55は治療の核となるのではないかと注目されています。
GPR55に対してインバース・アゴニスト(アンタゴニスト)として働きかけるCBDにも抗がん作用があると考えられるのも自然なことです。
現段階では、抗がん剤とCBDとの組み合わせでGPR55を持つがん細胞の縮小に成功したことが報告されています。
また、他のGPCRではGPR18もカンナビノイド受容体としての性質があるのではないかと考えられています。
現段階ではアブノーマル・カンナビジオール(通常のCBDと同じ元素を持つが構造が違う)やAEAによって活性化することがわかっています。
GPR18は眼圧や代謝障害、がんなどに関わっており今後研究が進められることが期待されます。
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