若い人にも増えている逆流性食道炎とは?その症状や原因は?
逆流性食道炎といえば数年前に頻繁にテレビのコマーシャルでも流れていたため、病名を耳にしたことがある方は多いと思います。
誰でも経験したことがあるような胸焼けや大したことのない胃の不調だと思っている症状が、実は逆流性食道炎かもしれないと啓蒙する内容のコマーシャルでした。
逆流性食道炎は胃食道逆流症(GERD)という、胃液や十二指腸液が食道に逆流する疾患の一つです。
GERDの症状は胸焼けや胸部不快感、腹部の張り、胃の痛みや不快感、げっぷ、嘔吐、胃酸の逆流、唾液の増加、口臭などがあります。
食道は食べ物などを胃まで運ぶ通路のような細長い器官です。食道と胃の間には下部食道括約筋(LES)などによって胃の内容物が食道に戻らないような構造になっています。
GERDの原因の一つには加齢によってこのLESが弱くなることがあります。
そして、GERDの発症には生活スタイルが大きく関わっています。GERDを悪化させる要因には脂質、タバコ、アルコール、酸、ストレス、カフェインなどがあります。
また、常に過食気味であることや食べてすぐに横になること、姿勢が悪いこと、呼吸器の疾患があり慢性的に咳が多いことなども胃の消化機能に影響し、GERDを悪化させる要因となります。
GERDは欧米型の食事や加齢によって引き起こされる病気であり、90年代以前は欧米諸国に多い疾患でした。
それまで日本ではほとんど知られていませんでしたが、食習慣の欧米化や人口の高齢化が進むにつれ、日本では2000年前後で急激に患者数が増えたと報告されています。
GERDの治療は、胃酸を抑制する薬の内服治療とライフスタイルの改善を同時に行います。
ライフスタイルの改善とは、生活習慣において食事内容・食事時間の見直しや禁煙、禁酒、食後の姿勢に気をつけること、ストレスを軽減することなどです。
CBDやCBDオイルは逆流性食道炎に効果がある?エビデンスはあるの?
CBDやCBDオイルは幅広い効果が注目され、近年人気が急上昇しています。どのような効果があり、また本記事のテーマである逆流性食道炎には作用するのでしょうか。
CBDやCBDオイルとは?
CBDは大麻などから抽出されるカンナビノイドと呼ばれる天然成分の一種です。CBDは体内のエンドカンナビノイドシステム(ECS)という身体機能の調節を行う仕組みを間接的に活性化させる働きがあります。
ECSは、内因性カンナビノイドと呼ばれるアナンダミド(AEA)や2-AGが、全身に発現するCB1やCB2などのカンナビノイド受容体に結合することで疼痛や炎症、不安、ストレス、吐き気、睡眠などの調節を行います。
CBDは直接CB1やCB2を活性化することはほとんどありませんが、AEAや2-AGを破壊する酵素を抑制したり、他の様々な神経伝達物質受容体などに作用したりします。
また、CBDはCB1を抑制する働きもあります。
大麻から抽出されるカンナビノイドは多くの種類があり、その中には陶酔作用や向精神作用のあるTHCというカンナビノイドが含まれています。日本では大麻取締法にてTHCを含む植物や製品の所持が制限されています。
CBDにはそのような作用が確認されていないため、CBDを摂取しても「ハイ」になることはありません。
CBDオイルは大麻などの植物から抽出されたCBDをオリーブオイルやココナッツオイルなどのキャリアオイルと混合したCBD製品です。
ECSの食道・胃への作用
GERDは食道の病気ですが、隣の臓器である胃から分泌される胃酸が原因となって生じる病気です。ECSの食道と胃の両方への作用に注目していきましょう。
蠕動(消化器官の動き)とLESへの影響
口から飲み込んだ食物を運ぶために、消化器官の壁が自動的に収縮したり拡張したりする動きを蠕動(ぜんどう)と呼びます。私たちが「お腹がゴロゴロする」「グーグーなる」などと表現する感覚です。
そして、食道と胃の間にある胃の内容物の逆流防止機構であるLESですが、健康な人であれば食べ物を飲み込んだり胃が食べ物を受け入れるために蠕動を開始したりすることが合図となり、自動ドアのように一時的に緩みます。
健康な人のLESは数秒でしっかりと再び閉じる仕組みになっており、一旦胃の中に入った食べ物が逆流することはありません。
しかし、後述するような何らかの原因でLESの機能が弱くなると、胃の内容物が逆流しやすくなリます。
過去の研究より、消化器官の蠕動やLESの圧の強さはCB1やCB2、そして近年第三のカンナビノイド受容体と言われているGRP55などが機能の調節に関わっているとわかっています。
まず、胃にはカンナビノイド受容体であるCB1やCB2が発現しています。2004年に行われた研究によると、CB1を活性化させると胃の内圧を低下させ、さらに胃の容量を大きくすることが報告されています。
胃の内圧が上昇すると胃酸が食道へ押し出される原因となってしまうため、胃内圧を低下させる作用はGERDの原因に対して有効であると言えます。
また、胃が広がることで食物が胃内に留まる時間が長くなるため、消化不良などの改善に役立つことも期待されてます。
一方で食道においては、食道粘膜のCB1を活性化させるとLESが緩むことが報告されています。
LESの緩みは逆流性食道炎に繋がりやすいですが、その原因として加齢などによる慢性的な場合と一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)があります。
若い人では喫煙やアルコールなどでTLESRを引き起こすとされています。
反対に、CB1の阻害薬を使用するとLESの圧を上昇させ、TLESRの割合を軽減させる効果があることも確認されました。つまり、CB1を阻害するとされているCBDやCBDオイルでも同じ効果があると考えられます。
さらに、近年の研究よりGPR55の活性化はおそらく食道から直腸までの消化器全体の蠕動を調節することが示唆されました。GPR55は嘔吐などを引き起こす胃や食道の迷走神経の調節にも関わっているとされています。
胃酸などの消化液の分泌抑制
飲み込んだ食べ物を胃の中で分解する胃液(胃酸)は強酸性の液体ですが、胃の内側の粘膜は胃酸によって自己の組織を損傷しないような構造になっています。
しかし、胃の真上にある食道の内側の粘膜は胃の粘膜の構造とは全く違って刺激に弱く、胃酸に晒されるとすぐに荒れてしまいます。
GERDを引き起こす真犯人とも言えるのが、食道へ流出する胃酸です。GERDの治療では胃酸の分泌を抑制する胃薬などが処方されますが、肝臓への負担などが大きく副作用も多いです。
CBDはCBDオイルの摂取は胃酸の分泌に影響を与えるのでしょうか。
過去の研究より、CB1の作動薬が胃酸の分泌を抑制したと報告されています。反対に、CBDと同じ作用を示すCB1阻害薬は、胃酸の分泌を抑制する効果を無効にしたと報告されています。
それではCBDやCBDオイルを摂取することは胃酸の分泌を促進して粘膜を傷つけることがあるのでしょうか。現段階では、そのような研究結果はありません。
CBDやCBDオイルは薬ではなく、あくまで「調節」をする成分です。そのため、CBDやCBDオイルを摂取することで必要以上に胃酸の分泌が増えることを心配する必要はないでしょう。
また、精神的ストレスや緊張は胃酸の分泌が増えることが知られていますが、CBDにはストレスを緩和する効果があります。そういった点でも胃酸を抑制するのに有効であると考えられます。
ただし、胃薬などを飲んでいる場合などはCBDやCBDオイルの摂取を注意するようにしましょう。
食欲の改善
これまでに、CBDには食欲を増進する作用と抑制する作用があることが報告されています。
例えば、がんや精神的ストレスなどで食事量を維持したくても難しい場合に、CBDやCBDオイルは食欲を増進させる効果があることが報告されています。
しかし、GERDの治療においては食事量を減少させたり、脂肪量の多い食事内容の改善は必要不可欠です。
CB1を直接活性化するTHCを摂取すると、食事の味をより美味しく感じたり食欲が増進したりすると言われています。
また、CB1の活性化は特に脂肪分の多い食事や高カロリーの食事を摂取した後に再び同じような食事が欲しくなるように脳に記憶させる効果があります。
CB1を阻害するCBDはどのように作用するのでしょうか。
過去の研究において、脂肪分の多い食餌を与えたマウスにCBDを使用したところ、2度目に再び脂肪分の多い食事を与えた際に、食事摂取量の減少に繋がったと報告されています。
この効果は、過食症や肥満の改善のためのダイエットなどにも効果があるとされています。
CBDやCBDオイルは食欲を抑制させる?それとも増進させる?
吐き気の改善
吐き気は胃酸の刺激によって引き起こされるGERDの代表的な症状の一つです。
ECSは吐き気の調節にも関わっています。
吐き気の抑制にはいくつかの受容体が関わっています。その中で中枢神経のCB1に直接作用するTHCは強い制吐作用があり、海外などでは抗がん剤の副作用の抑制などに使用されますが、日本では禁止されています。
CBDは間接的なCB1への作用もありますが、他にも5-HT1というセロトニン受容体によって吐き気を改善するとされています。
炎症と疼痛
GERDの中で逆流性食道炎と他の疾患の違いは、食道粘膜に実際に粘膜に損傷が生じることです。
抗炎症作用と鎮痛作用はCBDの作用の中で最も広く知られています。AEAや2-AGが炎症を引き起こす免疫細胞に出現するCB2を活性化することは消化器官の炎症を抑制する上で重要な作用です。
これまでにCBDやCBDオイルは様々な全身の炎症や疼痛を軽減する効果が報告されています。しかし、実際にCBDやCBDオイルによって食道粘膜の損傷による炎症や疼痛が軽減されるかは検証されていません。
逆流性食道炎の患者の食道粘膜には、健康な人と比較するとCB1が多く発現することが確認されています。ECSとGERDの炎症や疼痛は全くの無関係ではないと考えられていますが、さらに研究は必要となるでしょう。
CBDやCBDオイルは痛みを和らげるのに効果的?塗るタイプもある?
CBDやCBDオイルは逆流性食道炎の治療に使用すべき?摂取時に注意する点は?
CBDやCBDオイルが逆流性食道炎の症状の治療薬として有効であるかどうかは、現時点では研究がまだ不十分です。
しかし、これまでのエビデンスを見て、CBDやCBDオイルによって逆流性食道炎の症状を悪化させる可能性は低いと言えるでしょう。
直接疾患を治療する効果は不明でも、CBDやCBDオイルは逆流性食道炎の治療で薬物療法と並んで非常に重要である「生活改善」には有効であると考えられます。
上述したように、CBDやCBDオイルには逆流性食道炎の原因となる過食を抑えたり、胃酸分泌を促進するストレスを緩和させたりします。また、CBDやCBDオイルは睡眠障害の改善にも有効であるとされています。
他にも、アルコールやタバコは逆流性食道炎を悪化させますが、飲酒や喫煙の原因がストレスである場合にも、CBDやCBDオイルがストレスを緩和することで間接的に禁酒や禁煙を手助けできるかもしれません。
このように、現段階ではCBDやCBDオイルに逆流性食道炎の治療効果を期待するのではなく、生活習慣を変える手助けとして活用すると良いでしょう。
CBDやCBDオイルを摂取する以外にも、食べてすぐに横にならない、柑橘類のジュースなどを避ける、コーヒーを控えることなども大切です。
そして、CBDやCBDオイルは副作用が少ない成分であることも、様々な疾患の薬に代わることを期待される理由の一つです。
これまでに報告されているCBDの副作用は、下痢や口渇、強い眠気、食欲の変化などがあります。しかしそれほど重篤ではないため、適量を摂取する限りはほとんど心配することはないでしょう。
但し、食前や睡眠前などの空腹時にCBDやCBDオイルを単体で摂取すると、人によっては胃がムカムカすることがあるようです。自身の体質や体調などに合わせて摂取する時間を調節するようにしてください。
現在思い当たる逆流性食道炎の症状が現れており、まだ医師の診察を受けていない場合は、まずは受診するようにしましょう。大したことがないと考えていても自己判断は危険です。
また、CBDは多くの処方薬との相互作用があるため、他の薬との飲み合わせには注意する必要があります。
CBDやCBDオイルは薬の効果を妨げる?飲み合わせや相互作用は?
CBDがシトクロム450(CYP450)という肝臓に存在する薬剤の代謝に関わる酵素を阻害するためですが、逆流性食道炎の治療薬として処方される胃酸抑制薬もCYP450によって代謝されるものがあります。
逆流性食道炎以外にも持病がある場合や、すでに何かしら内服薬がある場合なども必ず医師や薬剤師などに相談をした上でCBDやCBDオイルの内服を開始するようにしましょう。
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