そもそも線維筋痛症とは?
線維筋痛症は慢性的な全身の筋骨格の痛みを主症状とし、疲労感や睡眠障害、記憶障害、集中力の低下、不安やうつなどの精神症状などを伴います。
線維筋痛症は発症リスクが男性より女性の方が高いのが特徴です。多発性硬化症やリウマチなどの自己免疫疾患を発症している患者に多く、家族が発症した場合は遺伝しやすいとも言われています。
現在のところ発症の原因は不明です。交通事故や手術、ウイルス感染などによって身体にダメージを受けたことをきっかけに発症することもありますが、何もきっかけがないまま少しずつ症状が現れ始めることもあります。
病院でのMRIや血液検査では異常がないことも多く、診断がなかなかつかないこともあります。
骨や筋肉など異常がないにも関わらず疼痛が生じる原因は、痛みや刺激を全身に伝える脳の仕組みに異常が生じ、些細な刺激でも増幅されて伝えられるためではないかと考えられています。
最新の研究では、脳や脊髄などの中枢神経系を構成する細胞で、活性化によって炎症性サイトカインを分泌するミクログリアと呼ばれる細胞が関わっているのではないかと言われています。
CBDやCBDオイルはどんなもの?効果は?
CBDは大麻草などで生成されるカンナビノイドと呼ばれる成分の一種です。植物などから抽出されたCBDをココナッツオイルなどのキャリアオイルと混合したものがCBDオイルです。
大麻草から抽出されるカンナビノイドにはハイにさせる作用のあるTHCもありますが、CBDには向精神作用はありません。
CBDやCBDオイルは摂取することで心身に有益な効果を数多くもたらします。その一例が、痛みや炎症を緩和する、心身をリラックスさせる、不安などの精神症状を安定させる、睡眠サイクルを正常化する、などがあります。
CBDの作用には、エンドカンナビノイドシステム(ECS)と呼ばれる体内の調節機構が関わっています。ECSは体内で過剰に活動している作用を抑制し、不足している作用などを活性化させる役割があります。
体内にはアナンダミド(AEA)や2-AGなどの内因性カンナビノイドと呼ばれる物質が分泌されており、全身に存在するCB1やCB2などのカンナビノイド受容体などに作用することで、ECSは機能します。
CB1は主に脳や中枢神経系に存在しており、CB2は末梢神経系や免疫細胞に存在しています。線維筋痛症の発症に関わっているとされている細胞であるミクログリアにもCB2が発現していることが確認されています。
CBDはAEAや2-AGなどのように直接カンナビノイド受容体に作用することはほとんどありません。
しかし、内因性カンナビノイドを破壊する物質を抑制することで体内での分泌量を増加させたり、様々な脳内の神経伝達物質の受容体を活性化させたり阻害したりする作用があります。
また、植物から抽出されるCBDはビタミンCよりも強力な抗酸化作用があり、活性酸素が原因の一つである癌を予防したり、脳神経を保護したりする効果があります。
CBDやCBDオイルは線維筋痛症にどんな効果がある?
CBDやCBDオイルが線維筋痛症に対して効果的な治療方法であると証明できる研究は現在のところ十分ではありません。
しかし、CBDは鎮痛作用や抗炎症作用、脳神経系への作用があることから、線維筋痛症の症状を緩和できる可能性があると考えられています。
CBDの脳や神経系への作用は線維筋痛症の治療において鍵となります。脳や神経が炎症を引き起こすことにより疼痛や不安などの精神症状などと結びついているとされているためです。
CBDには抗酸化作用があり、神経を保護する役割があります。それ以外にも、CBDによって脳の炎症を軽減したり神経を保護する作用はいくつも報告されています。
その一つが、神経伝達物質であるアデノシン受容体への作用です。アデノシンは脳内で分泌された後に再び同じ受容体に取り込まれる性質がありますが、CBDは受容体を阻害しアデノシンの再取り込みを防ぎます。
それにより、脳内でのアデノシン分泌量を上昇させます。アデノシンは脳の神経保護作用がある物質であり、さらには脳の外傷などによって引き起こされた炎症を軽減することが確認されています。
そのほか、活性化すると炎症性物質を分泌して脳神経にダメージを与える細胞であるミクログリアは、CB2を活性化させることでミクログリアの活動を抑制します。
2016年の研究において、この作用は脳神経系の炎症を改善する上で重要であると報告されました。
このようにCBDは神経や脳細胞の保護や修復を行う役割があり、線維筋痛症の患者の脳機能を改善する可能性が高いとされています。
また、線維筋痛症の主症状は神経性疼痛ですが、CBDが脳の炎症を軽減し神経損傷を修復することで、疼痛の軽減に繋がります。
CBDは神経因性疼痛に効果がある?カンナビノイド系の疼痛治療剤とは?CBDの鎮痛作用は、バニロイド受容体(TRPV-1)への作用も関わっています。TRPV-1はカプサイシンなどの刺激物によって活性化し、疼痛や炎症、体温の調節などを行います。CBD以外にもAEAも作用します。
さらに、不安や鬱などの精神症状に対しては、CBDがセロトニンやGABAなどの受容体に作用することによって改善できる可能性があります。
そして、線維筋痛症の患者は疼痛や不安などの精神症状により、睡眠障害を抱えていることが多いです。
アデノシンは脳の炎症の抑制や神経保護の働きがありますが、アデノシンの分泌量が増加すると脳の覚醒レベルを低下させ、眠気を引き起こします。
このようにCBDやCBDオイルは体内で多角的な作用をもたらすことで、線維筋痛症の症状を改善する効果は期待できそうですが、まだ解明されていないことはあります。
CBDやCBDオイルの服用を希望する場合は、医師に相談した上で服用を開始するようにしてください。
CBDやCBDオイルの線維筋痛症に対する研究事例を紹介
CBDやCBDオイルのみで線維筋痛症の治療効果を検証する正式な研究は行われていません。現段階では全ての症例において、医療用大麻が使用されています。
2011年に、56名の線維筋痛症の患者を対象に研究が行われました。
28名ずつ、大麻を服用したグループとしなかったグループに分けて比較したところ、服用から二時間後には大麻を服用したグループの方が疼痛や筋肉のこわばりの軽減や、眠気を感じる結果となりました。
次に、2019年にはオランダで20人の女性患者を対象に、4種類の大麻の効果を比較する研究が行われました。
高濃度CBDと高濃度THCを混合したBediol、高濃度CBDと低濃度THCを混合したBedrolite、低濃度CBDと高濃度THCを混合したBedrocan、そしてプラセボの4種類です。
その結果、CBDもTHCも高濃度であるBediolは20人中18人の参加者が平均で30%以上の神経性疼痛の軽減を感じました。しかしプラセボでも11人の参加者が30%の神経性疼痛が軽減したと感じました。
また、高濃度THCを含有するBediolとBedrocanは、触られた時に発生する痛みに対して大幅に改善する効果がありました。
しかし、THCの含有量が少ないBedroliteはほとんど有効な治療効果は観察されなかったということです。
2019年には、イスラエルでも数百人の患者を対象に、14種類の大麻を服用して6ヶ月に渡って研究が行われました。8割以上が女性患者です。
患者らは平均で670mgの大麻の摂取から開始しました。そして半年後には平均で一日に1,000mgまで大麻を増量しました。この時点で、平均のTHC摂取量は一日で140mg、CBDは39mgです。
現在も結果を追跡中であるため全ての結果は解明していません。
しかし研究初期段階では、半数以上の患者が大麻を服用しても疼痛の軽減を感じていなかったということでしたが、6ヶ月目には同様の訴えがある患者は7.9%に減少しており、効果が現れているようです。
以上の研究より、現段階では線維筋痛症の治療には高濃度のTHCを摂取した方が効果が高いと考えられています。しかし日本を含め多くの国や地域ではTHCは微量であっても合法ではありません。
線維筋痛症の専門家であるアメリカのGinevra Liptan医師による見解でも、CBDとTHCを組み合わせることが最も効果的であるとしています。
しかしこれまでに彼女が診察した患者の多くが、既存の処方薬に加えてCBDオイルを服用し、筋肉の強張りや疼痛、不安の軽減があったと報告しています。
そしてTHCは含まれていなくても、CBDは単体ではなくフルスペクトラムやブロードスペクトラムなどの、他のカンナビノイド成分などが含まれている方が効果的であるとしています。
また、効果の感じ方は患者によって様々ですが、CBDやCBDオイルは他の鎮痛剤などと比べ圧倒的に重篤な副作用が少ないため、線維筋痛症の治療の一部としてCBDオイルの服用を検討する価値はあると推奨しています。
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