近年増えている甲状腺の病気、バセドウ病とはどんな病気?
甲状腺は首の前面にある臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンには様々な役割があります。例えば、脳を活性化する、内臓を活性化する、体温を調節する、新陳代謝を促進するなどです。
甲状腺が過剰に活動する病気(甲状腺機能亢進症)として代表的なバセドウ病は、免疫細胞が自身の健康な細胞を攻撃する自己免疫疾患の一つです。
何らかのきっかけによって甲状腺刺激ホルモンの受容体を必要以上に活性化する「甲状腺自己抗体」が産生され、甲状腺に炎症が引き起こされます。そして炎症によって甲状腺ホルモンが多量に分泌されるようになります。
甲状腺ホルモンは全身に作用しているため、過剰に分泌されることで様々な症状が全身に引き起こされます。バセドウ病になると以下のような症状が現れます。
- 循環器症状:動悸、不整脈、頻脈、血圧上昇など
- エネルギー代謝異常:体温上昇、大量発汗、ほてり、強い疲労感、体重減少、息切れなど
- 精神・神経症状:イラつき、ストレス、不安、睡眠障害、手の震え、神経過敏など
- 胃腸障害:吐き気、嘔吐、下痢、食欲増加など
- 眼障害:結膜充血、眼球突出、まぶたのむくみ、視力低下、視野欠損、複視、眼圧上昇など
- その他:生理周期の乱れ、首の腫れなど
バセドウ病は30〜50代の患者が最も多く、女性患者数は男性患者数の5〜6倍いると言われています。
バセドウ病になりやすい要因には、ヨウ素(ヨード)の過剰摂取やアレルギー、喫煙、ストレス、妊娠などによるホルモンの変化、ウイルス感染、遺伝などがあるとされていますが、原因がはっきりとはわからないことがほとんどです。
CBDやCBDオイルはバセドウ病に作用する?エビデンスはあるの?
様々な作用が注目されているCBDやCBDオイルですが、バセドウ病には作用するのでしょうか。
CBDやCBDオイルとは?
CBDはカンナビジオールとも呼ばれ、大麻草などから抽出されるカンナビノイドという成分の一種です。
CBDの原料である大麻草には陶酔作用や向精神作用を引き起こすTHCというカンナビノイドが含まれており、日本では大麻取締法の元で所持が禁止されています。
CBDとTHCの体内での作用は全く違い、CBDを摂取しても「ハイ」になりません。反対に身体や精神をリラックスさせる作用があります。
CBDは私たちの身体のエンド・カンナビノイド・システム(ECS)という身体機能の調節を行う仕組みを活性化することが分かっています。ECSは疼痛や炎症、ストレス、不安、睡眠、食欲などの調節に関わっています
ECSとは、もともと体内で分泌されているアナンダミド(AEA)や2-AGなどの内因性カンナビノイドが全身に発現するCB1やCB2などのカンナビノイド受容体を活性化することで機能しています。
CBDは直接CB1やCB2を活性化するのではなく、AEAや2-AGを破壊する酵素(FAAH)を抑制したり、CB1をブロックしたりすることで神経の興奮を抑制したりすることなどが報告されています。
CBDやCBDオイルはバセドウ病に作用する?
カンナビノイド受容体であるCB1やCB2は全身に発現しますが、甲状腺にもCB1が発現することが分かっています。
2002年に行われた研究より、ラットの甲状腺に発現するCB1を合成THCによって活性化させたところ、甲状腺ホルモンの分泌量が30%減少したことが報告されました。
この研究において、甲状腺に発現するCB1は甲状腺機能の調節において鍵となる可能性が示唆されました。
しかし、マウスと人間の身体の大きさが違うことや、合成カンナビノイドと植物性カンナビノイドの効果は全く同じではないことなどから、人への効果を確認するためにはさらなる研究が必要であることが課題とされました。
2017年にはアメリカで大規模グループを対象にした研究結果が報告されています。この研究では、18歳から69歳までの5280人の成人男女を対象に甲状腺機能の調査が行われました。
調査に参加した被験者は、過去一ヶ月から現在までに大麻を使用している、過去一ヶ月より前に大麻を吸引していた、もしくは一度も大麻の使用歴がない、の3グループに分けられました。
その結果、過去一ヶ月から現在までに大麻を使用しているグループは、他の2グループと比較して甲状腺ホルモンの過剰分泌の頻度や、甲状腺に炎症を引き起こすTPOAbの分泌が大幅に少ないことが報告されました。
TPOAbは甲状腺自己抗体の一種ですが、主に橋本病(甲状腺機能低下症)の診断に使用されます。
橋本病とバセドウ病とはいわば真逆の症状ではありますが、やはりCBDやTHCなどの大麻の成分が甲状腺の機能に何らかの影響を与える可能性があるということが示されました。
現段階では、THCであってもCBDであってもバセドウ病に作用することは立証されていないため、標準的な治療を優先するべきでしょう。
CBDやCBDオイルはバセドウ病の治療そのものができるかどうかは今後さらなる研究が必要でしょう。しかし、バセドウ病患者が日常的に抱える辛い様々な症状を軽減することはできる可能性が高いです。
精神症状の改善
バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰分泌されることで脳が活性化します。甲状腺ホルモンは神経の興奮を引き起こしたり、またそれによって交感神経が優位になりイライラしやすくなったり不安が強くなったりします。
CBDやCBDオイルは脳神経の興奮を鎮静したり、心身をリラックスさせる「抑制系」と呼ばれるセロトニンやGABAなどの神経伝達物質の分泌を促進したりする作用があります。
睡眠障害の改善
甲状腺ホルモンによる脳の興奮や不安などによって睡眠障害に悩まされる患者が多いです。また、睡眠障害はホルモンバランスが崩れる要因にもなり、さらに甲状腺ホルモンを過剰に刺激する可能性があります。
上述したように、CBDやCBDオイルは精神症状を改善できますが、心身をリラックスさせることは良質な睡眠にも繋がります。
頻脈や高血圧の改善
CBDやCBDオイルの心身をリラックスさせる作用は、血圧や脈拍の改善にも有効であることが報告されています。
CBDオイルは血圧を下げるのに効果的?取り過ぎても副作用はない?胃腸障害の緩和
胃腸の動きを活発にする甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると吐き気や下痢などの消化器症状が現れます。CBDやCBDオイルは便秘や下痢などの胃腸障害にも有効であったり、吐き気を軽減する効果などもあります。
眼症状の軽減
バセドウ病の代表的な症状として広く知られている眼球突出ですが、眼球の奥にある脂肪組織に炎症が引き起こされて脂肪組織が腫脹するために眼球が眼窩(頭蓋骨の目のくぼみ)から外に押し出されてしまいます。
眼球突出は外見的な変化だけでなく結膜の乾燥や目の炎症などにも繋がります。また、目の奥の神経が腫脹した脂肪組織によって圧迫されると視力低下や視野欠損、失明の危険性もあります。
CBDやCBDオイルには抗炎症作用があり、全身の炎症を改善する作用があります。これまでに様々な自己免疫疾患においてCBDの抗炎症作用が報告されています。
そのため、バセドウ病で引き起こされる炎症にも有効である可能性が高いです。
CBDやCBDオイルは炎症に効果がある?中毒症状や副作用はない?
海外で使われている医療用大麻って?海外ではバセドウ病に使用している?
大麻が合法である国や地域では、「嗜好用大麻」と「医療用大麻」が区別されています。医療用大麻は実際にどのように使用されているのでしょうか。いくつかの地域での医療用大麻の使われ方について見ていきましょう。
医療用大麻とは?
医療用大麻とは、がんや慢性的な頭痛などの病気や症状がある患者で、医師が医療用大麻の処方箋、もしくは「Recommendation (推薦状)」を発行した場合にのみ使用できます。
また、医療用大麻を使用する患者も国や州が定める「医療用大麻のライセンス」の取得が必要となることが多いです。
海外の医療用大麻の適用の状況は?
海外で特にカナダやアメリカは大麻先進国のイメージがあるかもしれませんが、国や州によって大麻に関する法律に大きな違いがあります。
嗜好用大麻および医療用大麻が合法であるカナダのケベック州とアメリカのカリフォルニア州を例に見てみましょう。
ケベック州では、嗜好用大麻は「21歳以上」であれば誰でもSociété Québecoise du Cannabis(SQDC)という大麻販売店で嗜好用大麻の購入ができます。
SQDCで購入できる大麻製品は、日本のタバコやアルコールと同じ扱いで全て嗜好品の扱いになり、SQDCでは医療用大麻の購入はできません。
厳密には日本人など大麻が禁止されている国籍の保持者は自国の法律に従わなければならないため、カナダ人以外がケベック州で大麻を購入することはどんな理由があっても違法になります。
しかし現在、販売店では身分証明書での年齢確認以外はステータスの確認などがないため、観光客や留学生などでも購入できるのが現状です。
このように、2018年10月にカナダ全土で大麻が合法化されてから、ケベック州では大麻の所持や使用に年齢以外の規制はほとんどありません。
しかし、「医療目的」で大麻を購入する場合はカナダ連邦政府(国)が指定する特定の手続きが必要となります。
カナダでは医療用大麻の処方は「19歳以上」であり、患者自身が医療用大麻のライセンスを取得をし、大麻の治療を専門とする医師の診察を受け、州政府に登録された医療用大麻の販売者のもとで購入する必要があります。
2020年11月現在で、カナダ保健省(Health Canada)が「医療用大麻の適応」と指定している疾患は多くありますが、その中には「バセドウ病」は含まれていません。
しかし、大麻の作用に関する説明において、視床下部ー下垂体ー副腎系(HPA)に発現するCB1を活性化すると甲状腺ホルモンの分泌を抑制することや、ストレスなどの精神症状はHPAに影響を与えることに言及しています。
つまり、バセドウ病とは明記されていませんが、甲状腺ホルモンの異常分泌や精神症状、高血圧などのバセドウ病の症状がある場合は医療用大麻を処方してもらえる可能性はあります。
カナダ政府は医療用大麻について、終末期医療や緩和ケアなど現代の医療では十分に痛みを取ることができなかったり、副作用が強い治療などの「サポート」として幅広く認めていますが、大麻治療に積極的な訳ではありません。
あくまでも標準的な治療を行って十分な効果が得られなかった場合に示される選択肢の一つです。基本的には内服治療や手術などが第一選択になります。
アメリカの場合はどうでしょうか。
アメリカ合衆国の連邦法では大麻は全面的に違法になりますが、各州法によって嗜好用大麻および医療用大麻が合法、医療用大麻のみが合法、嗜好用大麻および医療用大麻ともに違法の場合などがあります。
嗜好用大麻および医療用大麻が合法であるカリフォルニア州では、医師は連邦法でスケジュール1ドラッグに分類される医療用大麻を「処方」することは禁じられており、あくまで「推奨」することのみが許可されています。
また、カリフォルニア州が医療用大麻の治療適用として挙げている病名や症状のリストには、バセドウ病は指定はされていません。
しかし、「医療用大麻によって緩和が期待できるその他の病気」という項目があるため、その中に含められると言えるでしょう。
このように、嗜好用大麻や医療用大麻が解禁されている国や地域でも医療用大麻は標準の治療法や処方薬ではなく、現段階ではあくまで「民間療法」のような扱いとされています。
医療用大麻を使用して長年苦しんでいた症状が改善されたり病気が治ったりした逸話は世界中でたくさんあり、また正式に研究されて論文などでも発表されたりしていますが、医療用大麻の取り扱いはまだまだ慎重です。
また、2018年に嗜好用大麻を解禁にしたカリフォルニア州では全面合法化して以降、ディスペンサリー(大麻用薬局)の数が増えるどころか減少し続けていることが言われています。
合法化によって大麻は誰でも簡単に手に入れられるようになりましたが、州に申請しないで大麻を販売をしていた闇市場を取り締まるための法が厳格化したためと言われています。
カナダでも同じことが起きていますが、全面合法化したにも関わらず、医療用大麻が必要であっても正規の値段では大麻を購入できない貧困層の間で「違法の大麻」が多く流通するという矛盾も起きています。
今後日本でも医療用大麻が使用できる?
CBDやTHCの様々な効果が認知され始め、日本でも医療用大麻が使用できることを望む方もたくさんいると思います。
身体的および精神的苦痛に長年苦しむ方々にとっては切実な願いかもしれませんが、海外での現状を見る限り医療用大麻の合法化は簡単ではないことが分かります。
直近では、2020年11月初頭にアメリカの4州で嗜好用大麻が合法化し、全面的に大麻が解禁されている州が15州になりました。また、新たに一州で医療用大麻が合法化となりました。
近年、アメリカの大麻合法化が急速に拡大していくつれて、近い将来日本にもその流れがあるかもしれないと感じるかもしれませんが、現段階ではあまり現実的ではない可能性が高いと言えるでしょう。
これまでに報告されている研究結果を見る限り、バセドウ病の治療にはCBDだけではなくCB1を活性化する作用のあるTHCを摂取することが理想的ではあると考えらえます。
しかし、日本ではごく微量であってもTHCを含む製品は違法になってしまいます。
CBDやCBDオイルにもECSを間接的に活性化する作用があるため、THCが入っていなくても何かしらの効果を得られる可能性はあります。
将来的に日本での医療用大麻が解禁になるかどうかはわかりませんが、まずは現在使用できるCBDやCBDオイルを選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。
医療用のCBDやCBDオイルは合法?喘息に作用する?
CBDやCBDオイルを摂取する際の注意点をご紹介!
CBDやCBDオイルは処方薬や市販の薬と比較すると副作用は少ないです。ただ、これまでに下痢や口渇感、強い眠気、疲労感、食欲や体重の増加などの副作用が報告されています。
CBDやCBDオイルによって副作用が生じる頻度は高くないため、心配しすぎる必要はありません。しかし、上記のような副作用の症状を頭に入れておくと、副作用が現れた場合に量を減らしたり摂取する時間を調整したりすることで副作用を改善できるようになります。
人によってはすぐにCBDの効果を感じることもあれば数日から数週間後・数ヶ月後に変化を感じることもあります。CBDの摂取量は少なすぎてもあまり意味がありません。
必要なCBDの摂取量や効果の感じ方は個人差がありますが、麻田製薬がおすすめしているCBDの摂取量としては、例えば、濃度15%のCBDオイルを摂取する場合は、最初はスポイト半分〜一本分程度にし、CBDの実感度合いによって1週間ごとに摂取量を調整することを推奨しています。
また、現在すでにバセドウ病の治療をしていたり内服薬がある方、持病がある場合はCBDやCBDオイルの服用を開始する前に医師に相談をするようにしてください。
CBDは他の薬との相互作用があるため、同時に服用することができない薬があります。必ず医師や薬剤師の指示に従うようにしてください。
そして、CBDやCBDを選ぶ際にはTHCや身体にとって危険な成分などが入っていないことが「第三者機関」によって検査されていることが確認できるものを選ぶようにしてください。
インターネットなどでは様々な製品を見つけることができますが、信頼できる販売元かどうかをしっかりと調べるようにしましょう。
関連文献