カンナビノイド受容体とは?CB1とCB2の違いと作用をエビデンスをもとに解説!
カンナビノイド受容体について解説する前に、まずは「カンナビノイド」とは何かを簡単にご説明します。
カンナビノイドとは、何千年も昔から薬や陶酔作用をもたらす物質として広く使用されてきた麻(カンナビス)から抽出される生理活性物質であり、100年以上前に成分を単体で分離することに成功しています。
1960年代以降、植物から抽出されるカンナビノイドが私たちの体内でどのように作用するのかという研究が進み、体内でカンナビノイドが作用する受容体があることがわかりました。
そして、人がカンナビノイド受容体を持っているということは、元々植物性カンナビノイドと同じような作用をもたらす物質が体内で分泌されているに違いないと考えられ、これが内因性カンナビノイドの発見に繋がりました。
カンナビノイド受容体とは、簡単に言えば植物から抽出されるカンナビノイド(植物性カンナビノイド)や体内で分泌されるカンナビノイド(内因性カンナビノイド)が持っている作用を細胞に伝える「仲介役」です。
カンナビノイド受容体には脳や脊髄(中枢神経)などに多く発現するCB1と、末梢神経や免疫細胞(白血球)、皮膚などに多く分布するCB2があります。現段階で分かっているCB1やCB2の分布は以下の様になります。
- CB1:脳、脊髄(中枢神経)、心臓、肺、血管、消化官、生殖器官、肝臓、骨髄、骨、膵臓、腎臓、甲状腺、眼球など
- CB2:脾臓、骨、皮膚、消化管、免疫細胞(Bリンパ球、単球、マクロファージ、好中球、NK細胞など)骨髄、膵臓、末梢神経、眼球など
CB1やCB2の分布を見ると分かるように、同じ器官であっても2種類のカンナビノイド受容体を持っている場合もあります。CB1やCB2とはそもそもどのような受容体で、具体的な違いはなんでしょうか。
カンナビノイド受容体は「Gタンパク質共役型受容体(G-protein coupled receptors:GPCR)」という種類の受容体で、CB1は472個、CB2は360個のアミノ酸分子で構成されています。
ここで、一般的なGPCRのシグナル伝達(生理活性物質が体内で生理的作用を起こすまでの過程)について詳しく見てみましょう。
体内で様々な作用をもたらす生理活性物質はアゴニスト(作動薬)と呼ばれます。
まず、アゴニストがGPCRに結合すると、Gタンパク質という特殊なタンパク質が酵素(アデニル酸シクラーゼやホスホリパーゼなど)に働きかけます。
次に、その酵素がセカンドメッセンジャー(cAMPなど)に働きかけ、その後タンパク質リン酸化酵素(A-キナーゼ、C-キナーゼなど)へと伝達されます。
そして、最終的に標的となる細胞のタンパク質がリン酸化されて生理的作用が引き起こされます。
CB1とCB2が機能するメカニズムは非常に複雑で、現段階でもすべて解明されている訳ではありません。
CB1とCB2とではGタンパク質以降のシグナル伝達に違いがあり、最終的に引き起こされる生理的作用にも違いがあるとされています。
またCB1とCB2に結合するカンナビノイドの種類にも違いがあります。
代表的な植物性カンナビノイドであるTHC(テトラヒドロカンナビノール)はCB1との親和性が非常に高く、CB1アゴニストとして作用します。
一方で、CB1やCB2に結合して作用をもたらすのではなく、CB1やCB2を塞いで不活化させる物質(アンタゴニスト)も存在します。
THCはCB2に対しての親和性が低く、むしろCB2アンタゴニストとして働くことが分かっています。
他の植物性カンナビノイドや内因性カンナビノイドでも、CB1やCB2に対するアゴニストとしての親和性の強さに違いがあったり、CB1やCB2のアンタゴニストとして作用する場合があります。
カンナビノイドについては後ほど詳しく解説します。
カンナビノイド受容体は薬に影響を与えてしまう?
カンナビノイド受容体が薬物の作用に影響を与えたり、また反対に薬物がカンナビノイド受容体に影響を与えたりすることがあります。
カンナビノイド受容体が薬物の作用に与える影響の一つが、脳の「報酬系」における相互作用です。
私たちの脳には「報酬系」と呼ばれる神経回路のグループがあり、活性化するとドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質が多量に分泌され、恐怖心や苦しみが抑制されて強い喜び(快楽)を覚えます。
報酬系はそもそも、生存のためには危険を冒してでもしなければならないことを達成するために発達したと言われています。
食料の確保が難しかった原始時代に生きていた私たちの祖先は、身体の痛みや不快感、悪天候、危険な動物との遭遇などがあっても狩猟を行わなければ餓死しかねません。
そこで、様々な「脳内麻薬」が分泌されることによってドーパミンが一時的に大量に分泌され、痛みや恐怖が取り除かれたり、狩猟の成功によって食事が出来る喜びが次回の狩猟へのモチベーションとなったりしていました。
現在でも、マラソン選手が感じるランナーズハイも報酬系の活性化によって起こるとされています。他にも、日常的に仕事や勉強などに対する意欲を持ち続けるためにも報酬系は重要な役割を果たしています。
しかし、現代では努力を必要としないで報酬系を簡単に活性化させるオピオイド(モルヒネなど)やアルコール、ニコチン、向精神薬などの物質が多数存在します。
ここでオピオイドに注目してみましょう。オピオイドは手術時や末期がん患者などに対して非常に効果的である鎮痛薬として知られています。
痛みがない時にオピオイドを使用すると、脳神経系に多く発現するオピオイド受容体に作用して、ドーパミンを抑制する物質であるGABAの分泌量を減少させ、ドーパミンの分泌量を増加させることで多幸感を覚えます。
外部からカンナビノイドを摂取しなくても内因性カンナビノイドによってCB1やCB2が活性化するように、私たちの体内にも元々オピオイド受容体に作用するエンドルフィンと呼ばれる内因性オピオイドが分泌されています。
CB1とオピオイド受容体はどちらもGPCRでありGタンパク質によってシグナル伝達が行われています。異なる種類のGPCR同士が近くに発現する場合「オリゴマー化」と呼ばれる反応が起こることがあります。
オリゴマー化を簡単に説明すると、通常は一つのGPCRに対し1組のGタンパク質が反応しますが、GPCR同士が近くに発現する場合に2つ以上のGPCRが複合してしまうことがあります。
その結果、GPCR単体で引き起こされる作用とは別の生理的作用が引き起こされます。
脳神経系に分布するCB1とオピオイド受容体同士がオリゴマー化した場合、単体でのCB1やオピオイド受容体と比べるとオリゴマー化した受容体は作用が弱くなったり、反対に増強されたりすることが示唆されています。
オピオイド受容体とCB1のオリゴマー化は、様々な症状の治療に有効活用できるのではないかと考えられており、現段階では特にその鎮痛作用に注目が集まっています。
他にも、カンナビノイド受容体が様々な薬に与える良い影響として、薬物依存の治療に効果をもたらすのではないかといわれています。
先述した様に、オピオイドは正しく使用すると非常に役立つ物質です。
しかし、オピオイドを摂取し続けると脳はエンドルフィンの分泌を止めてしまうためドーパミンの分泌量が減少してしまい、報酬系はドーパミン不足の状況に耐えられなくなった結果、依存症に繋がるという問題点もあります。
2007年発表の文献において、CB1のアンタゴニストによってオピオイドに対する禁断症状が抑制されたことが報告されています。
同文献において、ニコチンやアルコールでも同様に、CB1アゴニストはニコチンやアルコール摂取の禁断症状を促進させ、CB1アンタゴニストでは抑制する傾向が見られています。
そのため、CB1の阻害はオピオイドだけでなく、ニコチン依存症やアルコール依存症の治療においても鍵となるのではないかと示唆されています。
最後に、アルコールがカンナビノイド受容体に与える影響についてもご紹介します。過剰なアルコール摂取はカンナビノイド受容体の数を減らしてしまうとされています。
2012年発表の文献において、アルコール依存症の患者の脳内では、正常なCB1の数が健康な人と比べて極めて少なく、また一旦CB1の数が減ってしまうと数週間はその状態が元に戻らないことが報告されています。
CB1を阻害することで得られるメリットは大きいですが、脳から完全にCB1がなくなってしまうと、脳にとって必要な作用も得られなくなってしまいます。アルコール摂取量には注意したいところです。
カンナビノイド受容体による様々な身体へのメリットは期待が大きいですが、現段階では依存症の治療は自己判断ではなく必ず専門家の下で行うようにしましょう。
身体で生成される内因性カンナビノイドの働き!
CB1やCB2に作用する内因性カンナビノイドは現段階で10種類以上存在することがわかっています。その中でも、代表的なのがアナンダミド(AEA)と2-アラキドロイルグリセロール(2-AG)です。
AEAや2-AGは疼痛や免疫、炎症、食欲、消化、嘔気、代謝、運動、睡眠、知覚、学習、記憶、認知、快楽、不安、ストレス、動機、気分など、人が生きていく上で欠かせない様々な機能を助ける役割があります。
近年、AEAや2-AGなどが不足してしまう「エンドカンナビノイド欠乏症」という症状がカンナビノイドの研究者の間で注目されています。
エンドカンナビノイド欠乏症は様々な病気の原因であると考えられています。
現段階で原因がはっきりとわからない、自覚症状は強いが身体的異常が見つからない、治療法が確立されていない病気はAEAや2-AGなどが不足していることが疑われています。
特に偏頭痛と過敏性腸症候群(IBS)、線維筋痛症の3疾患はエンドカンナビノイド欠乏症によるものとして研究されており、内因性カンナビノイドを増加させることができれば治療に繋がるのではないかと考えられています。
カンナビノイド欠乏症とは?CBDオイルを使った治療法もある?
内因性カンナビノイドの出し方には様々な方法があります。
そもそも内因性カンナビノイドが減少してしまう原因として、加齢や先天的な体質など以外に、栄養不足や運動不足、睡眠不足、強いストレス、肥満などがあります。
内因性カンナビノイドを増やす方法の一つ目は食事の見直しです。AEAや2-AGは不飽和脂肪酸の一種であるアラキドン酸で構造されているため、肉や魚、卵、レバーなどの動物性の食品を意識的に摂取すると良いでしょう。
2つ目の方法として、やや強度の強い運動をするようにしましょう。のんびりとした散歩やウォーキングではなく、少し息切れする程度のジョギングなどを30分ほど続けると良いです。
そして、近年世界中で人気のCBDオイルを摂取することも有効だと言われています。CBD(カンナビジオール)は植物性カンナビノイドの一種です。
CBDは直接カンナビノイド受容体に結合することはほとんどなく、AEAや2-AGを破壊する酵素であるFAAHやMGLを抑制することで間接的にAEAや2-AGを増加させる作用があります。
CBDは「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンや、心身をリラックスさせるGABAの分泌量を増加させることも分かっています。CBDオイルの摂取を毎日の習慣にすることを是非おすすめします。
内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体の違いや関係性とは?
内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体によってコントロールされる身体の仕組みは「エンド・カンナビノイド・システム(ECS)」と呼ばれます。
ECSにおける内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体の関係性を最もわかりやすく例えると「鍵(AEAや2-AGなど)」と「鍵穴(CB1やCB2など)」です。どちらかが欠けても機能することができません。
ECSの主な役割は「鍵」が持つ様々な作用を「鍵穴」によって各細胞に伝えることで全身の様々な機能の調節を行うことです。
エンド・カンナビノイド・システム(ECS)とは?最新研究も紹介!
例えば、ECSによって調節される身体機能の1つである食欲の増進について見てみると、AEAと2-AGはともに食欲の変動に関わっていますが、その作用はやや異なります。
ECSによる食欲の増進には以下の2通りがあります。
- 食事へのモチベーションを刺激することで空腹・満腹に関わらず強制的な摂食行動を促進させる
- 食欲を調節する物質の変動によって摂食行動を促進させる
1.において作用をもたらす物質(鍵)はAEAで、鍵穴となるのはCB1です。AEAを注射されたマウスは満腹になってもさらに食べ続け、CB1が阻害されることで摂食行動が止まったと報告されています。
そして、2.においては2-AGが鍵となり、CB1が鍵穴となります。
2002年発表の文献において、空腹時にはマウスの大脳辺縁系や視床下部のAEAや2-AGが増加し、食事が進むにつれて身体に満腹の司令を出す視床下部における2-AGの減少が観察されました。
つまり、2-AGはAEAよりも食欲の増減に密接に関わっていることがわかります。
そこで、食欲との関わりが深く前脳にある側坐核という神経細胞に2-AGを注射したところ、2-AGの投与量に比例して食事量が増加したことが報告されています。
そして、2.においても1.と同様にCB1のアンタゴニストによって摂食行動が抑制されました。
この食欲の調節と同じように、ECSは全身の身体機能を内因性カンナビノイドとカンナビノイド受容体によってコントロールしています。
AEAや2-AG、CB1やCB2が減少してしまうと、どれほど大きな影響が現れるかお分かりになるでしょう。
カンナビノイドは超万能!?最新研究では色々な症状に効果的作用の可能性が!
カンナビノイドは新しい治療法の開発や病気の原因解明など、今後の医療において重要な役割を果たす可能性が高いです。
例えば、AEAにはがん細胞の転移や増殖を抑制する作用があることが示唆されています。
特定のタイプのがん細胞にはCB1の発現が見られており、in vitro(細胞)研究においてAEAがCB1に作用することでがん細胞が消滅することが示唆されました。
また、AEAや2-AG、CBDなどが作用するのはCB1やCB2だけではありません。
セロトニン受容体やGABA受容体など、他のGタンパク質共役型受容体にも作用することが分かっており、うつ病や統合失調症、PTSD、睡眠障害、不安神経症などの精神疾患や精神症状にも効果的であるとされています。
そして、カンナビノイドには脳神経保護作用や神経新生を促進する作用があります。そのため、アルツハイマー病や脳震盪(しんとう)、脳梗塞、てんかんなどにおける脳神経損傷を保護する可能性が示唆されています。
CBDやCBDオイルは脳梗塞や脳腫瘍に作用する?エビデンスも紹介!
ここでご紹介した疾患は一部であり、現段階で疾患の治療に有効であるとされるエビデンスはありません。病気の治療はあくまで主治医の方針を優先し、自己判断で治療を中断しないでください。
将来的には万能薬として活躍?カンナビノイドを使用した医療薬品の開発状況
1980年代から、海外では合成カンナビノイドを使用した医薬品が処方されています。主に、精神活性作用をもたらすTHCと同様の成分ですので、日本ではすべて未承認で麻薬扱いとなります。
- ナビロン(セサメット):鎮痛、制吐
- ナビキシモルス(サティベックス):鎮痛、抗けいれん
- ドロナビノール(マリノール):鎮痛、食欲増進、嘔吐
そして、2018年にはCBDを主成分とする難治性の小児のてんかん薬であるエピディオレックス(Epidiolex)がFDAに承認されました。カンナビノイドを使用した薬としては初の麻薬以外の薬になります。
ただし、こちらも日本では未承認ですので使用することはできません。
カンナビノイドに副作用はあるの?疑問に答えます!
CBDやCBDオイルの副作用として報告されているものは、強い眠気や疲労感、口渇感、吐き気、下痢などがありますが、一般的な薬の副作用と比較すると重篤な症状ではなく頻度も高くありません。
副作用とはそもそも薬が効きすぎてしまうことで引き起こされる症状です。薬の代謝能力には個人差があるため、自身に合った摂取量を見つけて過剰摂取しないようにすることで副作用を避けることができます。
CBDやCBDオイルの副作用はあまり心配する必要はありませんが、CBD製品は食品や薬のように消費者庁や厚生労働省などによって販売ルールやパッケージの表記方法などが統一されている訳ではありません。
そのため、一見高品質であっても粗悪なCBD製品を購入してしまう可能性もあります。THCフリーと謳っていてもTHCの混入が発覚することもあります。
ごく微量であってもTHCを含有する製品は大麻取締法違反となります。
このようなトラブルを避けるためにも、第三者機関による製品検査の結果をしっかりと確認して、THCが全く検出されていないこと、CBDの含有量がパッケージの表記と相違ないことなどを確認しましょう。
そして、CBDの原料である麻の産地や栽培方法、抽出方法、口コミなど、ありとあらゆる情報をしっかりと吟味して少しでも信頼度の高い製品を選ぶようにしましょう。
また、フリマアプリでのCBD製品の購入はトラブルとなりかねませんので、製造・販売会社の公式オンラインショップで購入するようにしましょう。
CBDは薬物相互作用がありますので、現在すでに薬やサプリメントなどを内服されている方、持病がある方などは必ず医師や薬剤師に確認してからCBDやCBDオイルを服用するようにしてください。
また、お子さんや妊娠中・授乳中の方のCBDやCBDオイルの使用は推奨されていません。CBDを服用したい場合は小児科医や産婦人科医等に使用可能かどうかを確認してください。
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